当院の取り組み

【認知症予防外来】認知症とは?

2021/06/17

認知症とは?~認知症予防の時代へ~

1. 認知症、軽度認知障害(MCI)とは?

 認知症とは、認知機能(記憶など)が低下すること(もの忘れなど)によって日常生活に支障をきたすようになった状態を指します。通常、認知機能正常の人が突然認知症になることはまれで、認知機能が少しずつ低下していって認知症になります。正常ではない、しかし、認知症ともいえないグレイゾーンの状態(正常と認知症の間の状態)を、軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)とよびます。MCIは、もの忘れはめだつものの日常生活には支障がない状態です。 社会の超高齢化に伴い、認知症の人は急増しています。現在、65歳以上の人の約17%は認知症を有しており、それとほぼ同数のMCIの人がいる、すなわち、高齢者全体の3割程度は認知症かMCIになっていると考えられます。認知症の人が占める割合は加齢と共に増加し、85~89歳になると全体の7割以上が、90歳以上になると全体の9割近くが認知症またはMCIです(図1)。つまり、長生きすれば、多くの方が認知症やMCIになります。 認知症はより早期の段階で治療方針をたて進行を抑えることが大切です。現在、認知症になる前のMCIの段階で認知症への進行を抑えることが重要な課題になっています。
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2. 認知症・MCIを起こす病気と症状

 認知症の原因にはさまざまな病気があります。一番多い病気はアルツハイマー病で認知症全体の約3分の2を占めます。それ以外にも、血管性認知症、レビー小体型認知症などのたくさんの病気があります。

初期の症状や経過も原因となる病気によって異なります。アルツハイマー病は、典型的には、もの忘れ(記憶の障害)で始まり(MCI段階)、その後、現在の日付や自分のいる場所がわからなくなるなど、認知機能全体が低下していきます(認知症段階)。さらに、認知機能低下に伴い、不安・焦燥、興奮、妄想、徘徊といった症状 [行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia: BPSD)とよびます] もみられることがあります。血管性認知症は脳卒中(脳梗塞や脳出血)のために認知機能が低下するもので、典型的には脳卒中発作を繰り返すと階段状に認知機能が低下していきます。レビー小体型認知症はレビー小体という異常構造物が脳に出現し認知機能が低下してくる病気で、認知機能の変動がめだち、パーキンソン症状(運動の障害)、幻視、睡眠の障害など、さまざまな症状がみられます。

3. 認知症・MCIの診断

診断は、まず、(1) 認知症あるいはMCIであるかどうかを診断し、次に、(2) その原因となる病気が何であるかを診断します。認知症の診断は、認知機能の低下が証明されること、認知機能低下により日常生活・社会生活に支障があることによります。認知機能の低下を認めるものの、日常生活・社会生活はほぼ支障がない状態はMCIと診断します。 認知症・MCIの原因となる病気の診断では、症状の経過や診察の所見を基本に、必要な検査を行います。ここでは、認知症の原因として最も多いアルツハイマー病についてみてみたいと思います。アルツハイマー病は多くの場合、記憶の障害(もの忘れ)で始まり(MCI段階)、徐々に認知機能が低下し認知症段階になり、軽度、中等度、高度(重度)の認知症へと進行していきます(図2)。検査ではアルツハイマー病の脳の202106251208Ninchi2.bmp変化の特徴を検出します。 アルツハイマー病では、記憶の中枢である海馬とよばれる脳の領域が小さくなる(萎縮する)のが特徴です。図2に示すように、進行につれて徐々に海馬領域(矢印)が萎縮していきます。しかし、MCI段階などの初期では、その萎縮は必ずしもめだちません(図2)。

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そこで、萎縮する前に、アルツハイマー病に特徴的なパターンで脳の機能が低下することをみる検査として、脳血流SPECT(スペクト)、脳代謝PET(ペット)(保険適用外)とよばれる検査が行われます(図3)。また、アルツハイマー病の脳には、アミロイドβとタウという2種類のタンパク質がたまっており、それらを検出することで診断の確実度は極めて高くなります。そのための検査として、それらを検出するPET検査(保険適用外)(図4)、脳脊髄液検査(アミロイドについては保険適用外)(図5)があります。

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4. 認知症の治療

認知症の治療や経過は原因となっている病気によって異なります。従って、最も大切な点は認知症の原因の病気の正確な診断です。現時点でも根本的な治療法がある"治る認知症"もあります。 たとえば、「特発性正常圧水頭症」や「慢性硬膜下血腫」が原因の場合には脳外科手術で症状が改善します。ある種のビタミン欠乏が原因の場合はビタミンを補充することが根本的な治療法ということになります。専門医を受診して相談しましょう。ここでは、最も多い原因であるアルツハイマー病の治療について説明します。 アルツハイマー病の治療は薬と薬以外の治療に分けられます。現時点で、薬の効果は限定的なため、薬以外の部分、すなわち適切な環境の整備や介護・リハビリが大切です。ご家族はご本人の不安な思いを知って支持的な態度で接し、介護保険制度に基づき、デイサービスやショートステイなどのサービスを利用します。 2021年6月現在、アルツハイマー病の薬として、脳を活性化する作用を有する(1)コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)と(2) NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)の2種類があり、症状に応じて片方あるいは両方が使用されています。これらの薬は症状を改善しますが(「症状改善薬」とよびます)、病気の進行それ自体を止めることはできず、長期的にみると症状は進行していきます(図6)。そのため、根本的な治療効果が期待できる薬剤の開発が急速に進んでいます(次の項をご参照ください)。BPSDに対しては環境整備やケア面が最も大切ですが、必要に応じてご家族と相談の上で薬剤(ある種の漢方薬や精神科の薬)を使う場合があります。

5. 今後の展望

認知症の原因となる病気をなるべく早期に診断し、なるべく早く治療方針を立てることが大切です。病気が進行し脳が高度に障害された後では、いったん低下した認知機能を元に戻すことはなかなか困難になります。より早期の段階、すなわち認知症になる前のMCIの段階で、原因となっている病気を診断し、有効な治療をすることによって、認知症への進行を予防することが重要な課題になっています。 認知症の原因として最も多いアルツハイマー病についてみてみますと、2021年6月、アルツハイマー病の脳にたまるアミロイドβというタンパク質を取り除く新しい治療薬(アデュカヌマブ)が米国で承認され、わが国でも承認申請中です。こうした薬はアミロイドβを取り除きますので、病気そのものの進行を抑制する効果が期待されています(「疾患修飾薬」とよびます)(図6)。重要な点は、こうした治療薬が効果を発揮するのは、MCIや初期の認知症の段階であり、認知症が進行した段階では効果が期待できないという点です。また、治療法の開発と同時に、脳のアミロイドを簡便に検出できる血液検査など診断法の開発も進んでいます。 このように、認知症診療は病気の早期の段階で診断し進行を予防する時代になりつつあります。2021年6月、九段坂病院は東京医科歯科大学と連動して「認知症予防外来」をスタートさせます。もの忘れが気になる方はご相談ください。詳しくは九段坂病院ホームページの診療案内(認知症予防外来)を、東京医科歯科大学病院との取り組みについては東京医科歯科大学病院ホームページ(外部リンク)をごらんください。

2021年6月9日

山田正仁(副院長・脳神経内科)