当院の取り組み

【整形外科】脊柱管狭窄症とは

2020/11/20

1 脊柱管狭窄症とは?

脊柱管狭窄症の多くが腰部で発症するため、以下は腰部脊柱管狭窄症について解説します。
腰部脊柱管狭窄症は脊柱を構成する椎間板、椎間関節や黄色靱帯の加齢変性によって脊柱管(背骨の中の神経の通り道)が狭くなり、その中を通る馬尾神経や神経根が圧迫された結果、腰痛や下肢(脚)の痛み・しびれ、歩行障害を生じる疾患です。加齢に起因するため中高年に多い疾患ですが、先天的に脊柱管が狭い場合には、若くして発症することもあります。
脊柱管狭窄症は、神経のどの部位が圧迫されるかによって3つに分類されます。

  1. 馬尾型...脊柱管の中心部(馬尾神経)が圧迫される。両側の下肢のしびれや痛み、排尿障害などを起こす。
  2. 神経根型...馬尾神経から分岐した先の神経根が圧迫される。片側の臀部から下肢にかけて痛みが起きる。
  3. 混合型...馬尾型と神経根型の両症状を伴う。

2 脊柱管狭窄症の症状

特徴的な症状は歩行時に出現する下肢の痛み・しびれで長距離歩行が困難となる間欠性跛行と呼ばれる症状です。間欠性跛行は歩行開始時に症状はありませんが,歩行距離が長くなると次第に下肢の痛み・しびれが出現して歩行が困難になる症状です。下肢の痛み・しびれは前かがみの姿勢や座位をとることで軽減しますが,それは脊柱管狭窄が直立姿勢でより高度となり,前屈姿勢で軽減するためです。間欠性跛行のある患者さんでも、前屈姿勢となる自転車走行では支障を来さないのも同じ理由からです。
症状が進行すると、間欠性跛行となるまでの距離が徐々に短くなり、安静時にも下肢(特に足部)のしびれが消失しなくなります。さらに症状が進行すると、下肢の筋力低下や筋萎縮、排尿障害や排便障害が出現しますが、排尿障害や排便障害まで進行する患者さんの割合は多くありません。
腰椎椎間板ヘルニアとの違いを判別するには、間欠性跛行の有無と、どのような姿勢で痛みが増悪するかを見ます。腰椎椎間板ヘルニアは急性発症することが多く、痛みが増悪するため前屈が困難となるのが特徴です。

3 脊柱管狭窄症の診断

脊柱管窄症の診断は、病歴の問診と筋力や腱反射などの身体所見、そして画像所見等から総合的に行います。脊柱管狭窄症と同様に間欠性跛行を生じる疾患として末梢動脈疾患があるため、それらとの鑑別が重要となります。
画像診断ではレントゲンで脊柱変性の程度、すべり(背骨のずれ)や側弯といった不安定性の有無、そしてMRIで実際の脊柱管狭窄の部位と程度を評価します。MRIは脊柱管狭窄症の診断に必須の検査ですが、当院では2台のMRIを駆使し、多くの患者さんで初診日にMRI検査が可能です。

4 脊柱管狭窄症の治療

脊柱狭窄症治療は保存的治療から開始します。馬尾神経や神経根の圧迫による神経の血流障害や炎症が発症の原因であるため、内服治療では血流改善薬や消炎鎮痛剤、そして神経障害性疼痛の治療薬を投与します。硬膜外ブロック注射や神経根ブロック注射も有用な治療法ですので、内服で効果が不十分な場合に検討します。
保存的治療の効果が不十分な場合や重症の麻痺を呈している場合は手術療法を選択します。検査入院で脊髄造影検査、病態診断を目的とした神経根ブロックを行い、症状の原因となっている椎間を同定して手術を行います。手術は除圧術と固定術に大別されますが、固定を行うかどうかは神経の圧迫部位や不安定性の程度を評価して決定します。

5 その他・治療実績等

当科では年間1000例以上の脊椎・脊髄手術を行っておりますが、疾患別では腰部脊柱管狭窄症に対する手術が最多となります。術式は不安定性が軽度なら低侵襲を目指した除圧術、高度の不安定性を伴う場合は除圧固定術を選択しますが、脊柱変形を合併した脊柱管狭窄症の場合には、広範囲の除圧固定術が必要となることもあります。

不安定性のない腰部脊柱管狭窄症患者

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術前MRI。L4/5に高度の脊柱管狭窄を認めます。

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術後MRI。左から顕微鏡視下の片側進入両側除圧術を施行し、脊柱管は十分に拡大しています。

不安定性のある腰部脊柱管狭窄症患者

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術前の脊髄造影。L3/4に側弯と前方すべりをともなう高度の脊柱管狭窄を認めます。

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術後のレントゲン。L3/4の除圧と後方椎体間固定術を施行しました。