当院の取り組み

【内科】ピロリ菌とは

2020/11/20

ピロリ菌とは

ピロリ菌は1979年にオーストラリアの医師が患者の胃の中から発見したらせん形の菌で、正式名称をヘリコバクター・ピロリといいます。培養の最中にたまたま長期間放置してしまったことによって発見されたとの説があります。
ピロリ菌は胃の中で長期間生息出来る唯一の菌で、胃がんや萎縮性胃炎をはじめ数多くの病気との関連が深いことが知られています。胃液には強い酸が含まれており通常の細菌は生息出来ませんが、ピロリ菌は自身の周囲にアルカリ性のバリアーを形成し、胃酸から身を守ることが出来ます。免疫力の低い乳幼児期に口から感染し、一旦定着したら自然に消えることはほとんどありません。ある種の毒素を出して胃と十二指腸の粘膜に慢性の炎症を起こし障害を与え、胃潰瘍や胃がんの誘因となります。またピロリ菌は胃と十二指腸だけでなく全身のいろいろな病気の原因であることがわかってきています。

ピロリ菌が原因となる病気と症状

ピロリ菌は胃に住んでいますので最も関連が深いのが胃と十二指腸の病気です。胃潰瘍と十二指腸潰瘍の大きな原因となっているのがピロリ菌感染です。萎縮性胃炎という胃の老化が進むタイプの慢性胃炎の原因の多くもピロリ菌です。慢性胃炎による症状は胃痛、胃もたれ、胃部不快、食欲低下などです。胃の症状は全員に起こるのではなく無症状のこともかなりあります。萎縮性胃炎の持続で胃が老化すると胃がんの発生率が増加します。逆にいえばピロリ菌がいない胃には胃がんは極めてまれです。ピロリ菌はアンモニアなどの有害物質を産生するので、病気だけでなく口臭の大きな原因にもなります。口臭の2大原因は歯周病とピロリ菌感染です。歯周病がないのに口臭があるときにはピロリ菌の検査をおすすめします。

ピロリ菌の診断

血液検査(ピロリ菌抗体の測定)、便検査(便中抗原の測定)、尿検査(尿中抗体の測定)、尿素呼気検査(検査薬を飲む前後で息を吐く検査)、内視鏡を用いる検査(胃の組織を採取する検査。迅速ウレアーゼ試験・培養検査・顕微鏡を用いる鏡検法)などがあります。検査の精度が高いのは便検査と尿素呼気検査で、結果が早く出るのは便検査と内視鏡を使用した迅速ウレアーゼ試験です。ウレアーゼとはピロリ菌が持つ酵素で、胃の中の尿素を分解し二酸化炭素とアンモニアを生成します。ウレアーゼの活性を利用してピロリ菌の有無を調べる方法がウレアーゼ試験です。
健康保険でピロリ菌検査を受けることが出来るのは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍がある場合、内視鏡で慢性胃炎と診断された場合、胃MALTリンパ腫や免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病(ITP)と診断された場合などです。

ピロリ菌の除菌・治療

ピロリ菌治療は薬の服用による除菌がメインとなります。除菌の目的はピロリ菌による胃と十二指腸の慢性のさまざまな症状を改善することと胃がんのリスクを低くすることです。胃潰瘍と十二指腸潰瘍になりにくくなるので出血のリスクが下がります。またピロリ菌が原因の口臭も改善が期待できます。ピロリ菌は乳幼児期の感染が多いと考えられており、除菌により自分の子どもへの感染を予防することにもつながります。子どもへの感染を防ぐには大人から口移しで食べ物を与えないなども有用です。
ピロリ菌は細菌ですので治療の基本は抗生物質の服用(内服)です。抗生物質2種類と胃酸を抑えるプロトンポンプインヒビターという胃潰瘍の薬を1日2回1週間内服します。内服中の日常生活の制限はほとんどありません。
ピロリ菌が除菌出来ても血液抗体は数年程度陽性ですので、血液検査は除菌判定には使用しません。最初の治療で除菌出来ていなければ抗生物質を1種類変更して除菌治療を行います。これを二次除菌といいます。二次除菌までは健康保険で治療できますがそれ以降の三次除菌は自費診療(10万円~)で行うことになります。

ピロリ菌治療(除菌)の副作用

除菌治療で最も多く起きる副作用は下痢です。最も怖い副作用は腸内の細菌バランスが崩れて起きる出血性腸炎で、200人に1人程度起こるといわれています。ピロリ菌が除菌出来たかどうかは内服治療の1ヶ月後以降に便か呼気の検査を行い判定します。
除菌後は、食欲が増して肥満になることがあるのも要注意です。除菌出来るとピロリ菌が産生していたアンモニアなどのアルカリ性物質がなくなり、胃液のpHが低下し約10%の人に逆流性食道炎の発症または悪化が認められます。逆流性食道炎は多くの場合数ヶ月で改善します。逆流性食道炎の持続により食道粘膜の障害が起こり食道と胃の接合部がバレット食道という状態に変化することがあります。バレット食道には食道がんが出来やすいといわれますが、日本人にはそれほど多くはありません。
ピロリ菌の診療と治療に健康保険が適応されるのは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍があるか、胃の内視鏡で胃炎と診断された方に限られます。当院では消化器内科と外科が平日毎日外来診療を行っています。必要な方にはなるべく早めに内視鏡検査を行うよう心がけていますので外来を受診してください。